保険適用の外科矯正治療

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外科矯正とは

「外科矯正」とは、顎骨の外科手術と歯並びの治療を組み合わせた「外科的矯正治療」のことをいいます。
外科矯正は、主に顎が上下・左右・前後に大きくずれている顎変形症の患者さんに適用される治療法で、かみ合わせなど機能面の改善は元より、顔貌のバランスの大幅な改善が期待できます。



外科手術は提携の歯科口腔外科(※)にて、2週間前後の入院を要して行われます。当院では手術前1~2年間の「術前矯正」と手術後半年~1年程の「術後矯正」を行い、口腔外科と連携を取りながら治療を進めていきます。



外科矯正が一般の矯正治療と大きく異なるのは、外科手術を伴うことのほかに、健康保険が適用できる点です。
ただし、全ての歯科医院で保険が適応されるわけではなく、「歯科矯正・顎口腔機能診断施設基準適合医院」の指定を受けた矯正歯科医院のみでの対応となります。
水戸歯科クリニック矯正歯科センターは指定を受けておりますので、検査や診断、術前・術後矯正、保定観察など健康保険を適用して行うことが可能です。



※ 歯科口腔外科 提携病院(他の大学病院等もご紹介可能です)

顎変形症とは

顎変形症とは、顎骨の形や大きさ、位置、バランス等の異常により、かみ合わせや発音にも影響を及ぼす状態をいいます。日本人には下顎が上顎よりも過度に前方にある症状(受け口・しゃくれなど)が多いですが、顎が曲がっている、出っ歯の程度が大きい、下顎がない等の症状の顎変形症もあります。



顎変形症の診断は、一般的な矯正治療の検査に加えて、顎関節、かみ合わせのずれを診断できる検査を行った上で診断します。矯正治療で十分に改善できる受け口の症状などは対象になりません。

顎変形症のお悩みは?

下顎前突のケース

骨格性の受け口で、下顎が上顎よりも過度に前方にある症状です。

外見のお悩み

顎が目立つ、しゃくれているように見えることで、幼い頃からコンプレックスを抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
口を閉じると口角が下がり「への字」の不機嫌そうな口元になったり、自然に閉じにくいため無理に口を結ぶとオトガイに梅干しシワや口の周りの筋肉に歪みが出てしまうため、表情でマイナスになってしまうこともあります。

機能面のお悩み

前歯で麺類が噛み切れない、サ行・タ行の滑舌が悪い、口を閉じにくく口呼吸になる、口を開けると音がする(顎関節症)などの不具合を感じている方は多いでしょう。
子どもの頃からの慣れで特に困っていなかった方でも、矯正治療後に「こんなに違うものなのか!」と驚く方が多くいらっしゃいます。顎への負担はかなり大きく、治療後はいろいろな機能面で随分楽になると思います。

上顎前突・下顎後退のケース

骨格性の出っ歯で、上顎が下顎よりも過度に前方にあったり、下顎が過度に後方に下がってオトガイ(顎の先端部)が無いような症状です。

外見のお悩み

顎変形症の上顎前突の場合は、かみ合わせが深過ぎたり、笑った時に過度に歯ぐきが目立つ「ガミースマイル」になってしまうことがあります。
また、下顎が小さく、下顎が過度に後退しているケースでは、あごが無いように見えたり、あごのシワや二重あごを作る原因になります。

機能面のお悩み

上顎が前に出過ぎている、または、下顎が引っ込み過ぎていると、自然に口を閉じられないことが多くなります。過度な下顎後退は、いびきをかきやすかったり、睡眠時無呼吸症候群を引き起こすこともあります。

顔面の非対称(歪み)・顎の変形のケース

顎骨に左右差があり、顎が横にずれていたり、正面から見ると顔が曲がって見えたりする症状です。

外見のお悩み

人間の顔は100%左右対称ではないため、軽度であれば生活習慣を変えることでも症状は軽減するでしょう。
ですが、お顔の歪みが重度の場合は、審美的に大きな負担になっているかと思います。顎骨の左右差により、お顔の筋肉のつき方も左右でアンバランスになり、表情筋にも影響が出てしまう場合があります。

機能面のお悩み

やはり咀嚼には大きな影響があります。かみ合う片側のみで物を噛んでしまうことで、顎関節症を併発している方もいらっしゃいます。
また、せっかく治療を完了しても、しみついた生活習慣で片側噛みや頬杖などの習癖を続けていると、後戻りを引き起こしてしまう場合があるので注意が必要です。

外科矯正の流れ ~ 各ステージの内容 ~

1

初診相談(当院)

問診・視診を行い、症状から外科矯正の可能性がある場合は、手術を併用した矯正治療についてご説明します。

2

検査(当院)

レントゲン・写真撮影、歯型の採取など一般的な矯正治療の検査に加え、顎機能や咀嚼筋機能の検査を行います。

3

診断(当院)

矯正医2名で分析した診断結果をもとに、症状や外科矯正についての詳しいご説明と、外科矯正を適用して治療していくご希望があるかどうかを患者さんとよく話し合います。
場合によっては、ご家族も同伴いただいた上でご説明いたします。

4

口腔外科の受診(入院施設のある総合病院 歯科口腔外科)

外科手術を依頼する口腔外科に資料や紹介状を用意いたしますので、受診してください。
入院・手術について詳しい説明があります。
必要に応じて、事前の抜歯などもこちらで対応していただきます。

5

術前矯正(当院)

外科手術前の術前矯正期間は一般的に1~2年間です。
術前矯正では、手術によって顎をずらした時にきちんとかみ合う歯並び・歯の向きに並べます。

通常、受け口の歯並びは、上下顎骨の不調和を歯の傾きで補うよう生体が反応し、上の歯は外側に下の歯は内側に傾斜しています(歯性の補償)。
このままの状態で手術により上下顎の前後関係を変えても、かみ合う歯並びにはならないため、術前矯正で前歯を適正な角度に整える必要があります。
そのため、一時的に治療前よりかみ合わせは悪くなったと感じます。

歯性の補償とは

歯性の補償とは

※サージェリーファーストについて

外科矯正の中で「サージェリーファースト」という治療法があります。これは術前矯正をせず、先に外科手術を行ってから術後矯正のみで歯並びを整える方法です。 治療期間が短縮できるメリットはありますが、健康保険が適用されないデメリットがあります。「歯科矯正・顎口腔機能診断施設基準適合医院」の指定を受けていない医院は対応しているようですが、当院では行っておりません。

6

入院・手術(総合病院 歯科口腔外科)

入院・手術に要する期間は一般的に1~2週間です。
入院の前には、手術日の確定や手術の説明、外科手術に伴う全身検査などのため、1~2回の通院が必要になります。

外科手術は全身麻酔下で行われます。
術後は酸素マスクに点滴、ドレーンの安静状態から始まり、開口訓練や会話状態の確認をしていきます。
ミキサー食を経て柔らかいものが摂取でき、十分に会話ができるようになったら退院です。

7

術後矯正(当院)

手術の腫れが退いたら、術後矯正をスタートします。外科矯正の仕上げとなる術後矯正期間は半年~1年程度です。
ここで不安定なかみ合わせを整え、きちんとした歯並びを作っていきます。

8

矯正装置除去・保定開始(当院)

保定期間は2年程度、通院間隔は3~6か月に1回となります。
きれいになった歯並びをその位置に安定させ、後戻りさせないようにする重要な期間です。
矯正装置を外し、取り外し可能な保定装置(リテーナー)を使用します。
保定期間中にプレート除去を行う場合もあります。

9

保定・矯正治療終了(当院)

歯並びやかみ合わせが安定したら、治療終了となります。
外科矯正は治療結果に劇的な変化を伴い、機能性はもとより審美的な障害を大きく改善できることが多いです。
治療後はお顔の印象は大きく変わっていることでしょう。

外科矯正の治療費について

当院での治療費

顎変形症と診断した場合、当院で行う検査費用、術前・術後矯正費用、保定観察費用などは、健康保険を適用できます。

初診相談時の問診・視診で明らかに顎変形症と判断でき、患者さんも外科矯正をご希望の場合は、検査費用から健康保険適用になります。
一般の矯正治療で改善が見込める可能性もあるボーダーラインの場合は、一旦自費で検査費用をお支払いいただきます。その後、精密検査で顎変形症と診断がつき、患者さんも外科矯正をご希望で、手術を行う病院の口腔外科も治療方針を了承した場合には、検査費用について保険適用の差額分の返金し、以降は保険適用で治療を進めていきます。

また、顎変形症と診断されても外科手術を伴う治療を迷う方は当然いらっしゃいます。
顎変形症でも一般の矯正治療をご希望の場合、症状によっては治療をお受けいたしますが、治せる範囲は限られてきます。尚、外科手術をしない場合は健康保険の適用にはならず、自費診療になります。

歯科口腔外科での治療費

顎変形症の場合、歯科口腔外科での検査、通院、手術入院は全て保険が効きます。
また、手術入院費用は高額療養費制度の対象となります。1か月間に支払われた医療費の自己負担額(差額ベッド代などは除く)が定められた限度額を超えた場合、申請をすれば医療費の一部が戻ってきます。

詳細は以下をご参照ください。
厚生労働省ホームページ 高額療養費制度を利用される皆さまへ

また、外科矯正は医療費控除制度も利用できます。
詳細は、料金表ページまたは国税庁のホームページ(No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例)をご参照ください。

外科矯正の治療例

上顎に対し、下顎が大きく突出している骨格性の下顎前突の患者様です。上下左右の第一小臼歯を抜歯し、術前矯正に1年半程度、手術後のかみ合わせ調整のための術後矯正に6か月程度の期間を要しました。

手術を併用した外科矯正治療で、治療後は前歯のかみ合わせも正常になり、お顔の印象も大きく変わりました。

<矯正治療前後の写真>

矯正治療前

矯正治療前
右矢印

矯正治療後

矯正治療後

■主訴

下顎が出ている

■診断名

下顎前突・顎変形症

■年齢

21歳

■治療に用いた主な装置

マルチブラケット装置(スタンダードエッジワイズ法)

■抜歯部位

上下顎左右第一小臼歯

■治療期間及び回数

2年7か月/月に1回程度の通院・入院11日(保定期間は2年程度で3~6か月に1回の通院)

■治療費概算(自費)

保険適用3割負担の場合、約22~31.9万円 ※外科手術費(保険)は別途(高額医療費制度適用)

■リスク・副作用

  • 個人差はありますが、装置を付けた当初は不快感や痛み等があります。数日から1、2週間で慣れることが多いです。
  • 歯を動かす際に歯根吸収や歯肉退縮が起こる場合があります。
  • 矯正治療中は歯磨きしにくい部分ができるため、むし歯や歯周病になるリスクが高くなります。
  • 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと、後戻りが生じる可能性が高くなります。

※掲載症例の治療費は治療当時の費用です。現在の治療費用は料金ページをご確認ください。

外科矯正Q&A

Q1

術前・術後矯正をマウスピース型矯正装置で治療することはできますか?

日本の健康保険制度では、治療上「必要十分で最低限」の基準で医療用材料費が設定されていますので、マウスピース型矯正装置を用いた場合は保険適応外になります。従って、当院で健康保険を適用して行う顎変形症の治療は表側のワイヤーの矯正装置を使用します。

インビザライン等のマウスピースで、保険適用せずに外科矯正を行う医院もあるとは思いますが、外科矯正における術前矯正は非常に不安定なかみ合わせとなるため、マウスピース型矯正装置よりもしっかりと固定したワイヤー装置のほうが適していると考えます。

Q2

外科手術にはどのようなリスクがありますか?

全身麻酔下で行う外科手術ですので、一般的な外科手術同様のリスクはあります。
手術時に出血量が多くなれば輸血を伴うことがあったり(事前に自己血貯血なども行う場合があります)、神経の損傷によりしびれや顔面麻痺などが起こるリスクもあります。手術により口腔環境が変わるため、機能訓練(リハビリ)が必要になる場合もあります。

Q3

外科手術後はどのくらいで以前の生活に戻れますか?

退院時は会話に支障はなくなっていると思いますが、口が開きにくいのはまだしばらく続きます。 食事は退院後もしばらくは柔らかいものを食べるようにしてください。1か月ほどで普通の食事が可能になるでしょう。

学生や社会人の方は術後2週間程度で復帰する方が多いようですが、肉体労働や激しいコンタクトスポーツ、吹奏楽の演奏などはまだしばらく控えていただいた方が良いでしょう。術後の経過や体力は個人差もありますので、退院時のアドバイスをしっかり聞くようにしてください。

Q4

外科手術は何歳くらいから可能になりますか?

個人差はありますが、外科手術は下顎の成長発育が止まってからになります。一般的には、男性は18~20歳くらい、女性は15~17歳くらいでしょう。下顎の骨は手足と同じ種類の骨になりますので、身長の伸びが止まってからとお考えください。

Q5

外科矯正か一般の矯正かで悩んでいます。

顎矯正手術を伴う外科矯正と歯列を動かす一般の矯正治療とでは、仕上がりは全く違います。外科矯正は顔貌にかなり変化が見られる治療になりますが、顎変形症の診断を受けた症状を歯列矯正のみで治す場合は、骨格の問題は全てクリアにはなりません。長い間、見た目のコンプレックスにお悩みだった場合は、歯列矯正単独の仕上がりには満足できないかもしれません。

ただ、外科矯正の顎矯正手術は、顔のかたちが変わります。特に上顎の手術では、鼻のかたちも変わることをご承知ください。かみ合わせを整えることが目的の外科矯正は、美容整形手術とは違いますので、手術による顔貌の変化が患者さんの望んだ通りになるかは分かりません。顔が変わることに不安が大きい方は、歯列矯正をご検討いただいても良いかもしれません。また、外科手術が怖い、2週間も入院して仕事を休めないなど、それぞれのご事情で外科矯正を選択できない方もいらっしゃると思います。

外科矯正と一般の矯正治療のボーダーラインの症状であれば、患者さんのご希望を優先に治療法を選択していただくことになります。100%の結果にはならないかもしれないけれど、今選択できる治療法は一般的な歯列矯正治療しかないのであれば、どこの部分をどこまで治したいかをご相談いただき、どのような治療結果が得られるか十分検討した上で治療を開始することが望ましいでしょう。